母の背中と、珈琲の香りと、キッチンの佇まい ── エクレアパーツ小冊子掲載に寄せて

はじめに

先日、オーダーキッチンのパーツや造作金物を手掛ける「エクレアパーツ(ekrea Parts)」様の小冊子にて、「ケヤキと共に暮らす家」のキッチンを取り上げていただきました。

誌面では、「住まい手の人生を引き立てる、最高の背景となる家」という見出しとともに、私たちが大切にしているミリ単位の造作や、空間全体のノイズを削ぎ落とす試みをご紹介いただいています。

エクレアパーツの小冊子に掲載されたカワムラアーキテクツ設計の造作キッチン記事「ケヤキと共に暮らす家」

メキシコの建築家ルイス・バラガンは、かつてこのような言葉を残しています。

「ノスタルジーとは、個人の過去にたいする詩的な認識のことです。芸術家にとっては、自分自身の過去は、創造力の源となります。建築家も、自らのノスタルジーの啓示に、耳を澄ませてみなければなりません。」
(Luis Barragan: Escritos y Conversaciones より)

今回の取材を通じて自らの仕事を振り返るなかで、私自身がなぜこれほどまでに「家族とキッチンの距離感」や「生活を受け止める佇まい」に心を砕くのか、その原点にある幼少期の記憶に思いが至りました。

原風景:小さな住まい、母の背中と食卓の記憶

私の台所と食卓の原風景は、大学入学まで暮らした公団住宅の小さな一室にあります。

そこには、いま主流となっているような広々とした対面カウンターなどありませんでした。壁に向かって設えられた、ごくシンプルな流し台。母はいつも家族に背中を向けながら料理をしていました。

視線を交わさずとも、背中越しに届く台所のリズムや煮炊きの匂い、その気配だけで我々兄弟の様子を感じ取っていたのだと思います。

襖を外して絨毯を敷き詰めた6畳足らずのリビングには、テレビ、父が集めた文豪たちの全集や美術展の大判図録が並ぶ本棚、そしてオーディオ機器とスピーカーが所狭しと並んでいました。休日の朝に父が手回しミルで挽く珈琲の香りと、レコードに針を落とす音。冬になれば皆でひとつの四角いテーブルを囲み、顔を寄せ合って過ごす毎日でした。

父が集めた小さな木彫りの置物、使い込まれた古い道具などが所狭しと並ぶ雑多な空間でしたが、物と人、人と人の距離が近く、そこには工夫しながら住みこなす豊かな時間が流れていました。

キッチンの形に「正解」はない

家づくりのご相談をお受けする際、「LDKは何畳くらい必要でしょうか」「やはり対面キッチンが良いでしょうか」というご質問をよくいただきます。

現代の住まいにおいて、開放感があり家族を見渡せる対面キッチンやアイランドキッチンが主流になるのはごく自然なことです。

しかし、自らの原体験を振り返るにつれ、間取りの形式やキッチンの形そのものに絶対的な「正解」があるわけではないと強く感じます。

壁付けであっても、背中越しに伝わる安心感や、料理に集中できる心地よさがあります。たとえコンパクトな広さであっても、家族が食卓をぎゅっと囲んで寄り添う密度の高い温かさがあります。日々の生活には、お気に入りの道具や家族の営みといった、愛おしい生活の温度が自然と溢れ出てくるものだからです。

居心地の良さを生み出すのは、間取りの形式や面積そのものではなく、その場所でどんな時間を分かち合いたいかという「家族の関係性」そのものです。

建築家が引く図面やシナリオは、暮らしの「きっかけ」にすぎません。そこで紡がれる日々の時間は、住まい手ご家族に委ねられています。

暮らしの数だけ、キッチンの佇まいがある

だからこそ、私たちはひとつの型を押し付けることはしません。住まい手の数だけ、あるべきキッチンの姿は異なります。

▼ セミオーダーで、空間のノイズを削ぎ落としたキッチン
タモの突板仕上げとステンレス天板で仕立てたセミオーダーキッチン(ケヤキと共に暮らす家)

今回エクレアパーツ様の小冊子に掲載された「ケヤキと共に暮らす家」では、信頼のおける既製パーツ(キッチン・キット)を活かしながら、木目が美しいタモの練り付け(突板)で全体を包み込む「セミオーダー」の形をとりました。

引き出しは取っ手を排し、上端を斜めにカットしたテーパー仕上げに。背面のカップボードや吊戸棚も素材を統一し、ミリ単位で調整することで既製品特有の隙間や違和感を消し去り、生活のノイズを静かに引き算しています。

▼ 大きなカウンターを囲む、家具のようなフルオーダーキッチン
段差を活かしてカウンター高さを揃えたフルオーダー造作キッチン(一宮のセカンドハウス)

一方、週末の非日常を過ごす「一宮のセカンドハウス」では全く異なるアプローチを試みました。

大きなL字の木製カウンターとシンクを一体で仕立てた「フルオーダー」のキッチンです。

料理を作る人と、ワインを傾けてくつろぐ人がボーダーレスにひとつのカウンターを囲めるよう、キッチン土間とダイニング側の床に段差を設け、視線とカウンターの高さを揃えています。

バックカウンター壁面の大型モニターではスポーツ観戦も楽しめ、料理をしながら、あるいはグラスを傾けながら、家族や仲間とともに賑やかな時間を分かち合える場所になっています。

「静かな背景」をつくるということ

キッチンの選択肢は、こうしたフルオーダーやセミオーダーだけに限られません。

ご予算や日々のお手入れのしやすさ、清掃性を最優先に考え、メーカーの「システムキッチン」を上手に取り入れる選択ももちろんあります。

建築そのものが過度に主張してしまっては、暮らしの居場所がなくなってしまう。

住まう人の暮らしやモノを大らかに受け止めるために、私たちが大切にしているのは、「どのメーカーの、どんな形のキッチンを選ぶか」を超えて、選ばれたキッチンが空間の中で唐突に主張せず、日々の暮らしを引き立てる『静かな背景』として佇んでいることです。

日常のストレスを減らすための緻密なパントリーや収納の設計。そして、視覚的な雑音を消し去るミリ単位の手仕事。

かつて母が立っていた台所や、父の珈琲の香りが染み込んでいたあの部屋のように、住まいはやがて家族にとってかけがえのない「記憶の原風景」になっていきます。

これから家づくりを始められる方それぞれのノスタルジーや、思い描くこれからの時間に耳を澄ませながら、日々の人生を静かに引き立てる器をつくり続けていきたいと思います。

「自分たちに合うキッチンの形を見つけたい」「土地や間取りの相談をしてみたい」など、家づくりの初期段階からのご相談もアトリエにて随時承っております。お茶を飲むような気軽さで、どうぞお気軽にお声がけください。


カワムラアーキテクツ一級建築士事務所

千葉・東京を中心に、神奈川・埼玉など関東一円(ご相談により全国対応)にて、住まい手の暮らしを引き立てる「静かな背景」となる住宅の設計を手掛けています。

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「住めば都」のその先へ――土地選びから始まる、暮らしのシナリオ

落ち着いたトーンの浴室から深い木張りの軒下を通して空と庭の緑への抜け感を愉しむ建築実例
敷地の奥へと広がる空と緑を、深い軒とやわらかな光の中で受け止める。建てる場所の環境を読み解くことから、日々の心地よい居場所が生まれます。

家づくりを考え始めるとき、「まずは土地を決めてから、建築家や住宅会社を探そう」と思われる方が多いのではないでしょうか。

実際にご相談をいただく中でも、「まだ土地が決まっていないのですが、相談してもいいのでしょうか」というお声をよく耳にします。

ですが私たちは、「土地を探しているまさにその段階からこそ、ぜひ声をかけてほしい」と考えています。

どこに住むか、地面とどうつながるか
「どこに住むか」ということは、もしかすると建物そのもの以上に日々の暮らしを左右する大切な要素かもしれません。マンションのように地面から離れた暮らしとは違い、一戸建ては土や庭、そして周囲の街並みと直接関わり合いながら生きていくことになります。

土地の図面を見ていると、広さや日照、価格といった数字にどうしても目が行きがちです。もちろんそうした客観的なデータも欠かせませんが、土地の本当の姿は、朝・昼・夕方、そして春夏秋冬と季節が巡る中で刻々と表情を変えていきます。

そして「本当に自分たちにとって最適な土地なのか」ということは、実はある程度住みこなしてみて初めてわかる余白のようなものを含んでいます。

「住めば都」という言葉があります。
人は環境に対して想像以上にしなやかな柔軟性を持っています。長くその場所に身を置き、季節の移ろいを感じながら住みこなしていくうちに、いつの間にかそこが自分にとって一番安らぐ場所になっていく。土地選びとは、そうした時間をかけて馴染んでいく長期的な環境づくりの第一歩なのだと思います。

「南向きの大きな窓」は、本当にあなたにとって心地よいか
日本の住宅では、「南側に庭をとり、そこに大きな窓を開ける」というのが一つの常識のようになっています。縁側でひなたぼっこをするような心地よさは、確かに多くの人に親しまれてきた住まいのかたちです。

しかし、すべての人にとって直射日光の入る南向きが最善とは限りません。
たとえば私の母のように、直射日光が身体的に負担に感じられる人もいます。むしろ少しトーンを落とした、やわらかい北側や東側の光に包まれた静かな空間のほうに、深い落ち着きと心地よさを見出す方もたくさんいらっしゃいます。

街を歩いていると、南向きの敷地に大きな窓を設けたものの、すぐ目の前が隣家の外壁で、結局一日中カーテンを閉め切ったまま暮らしている家を見かけることがあります。

「南向きでなければならない」という思い込みが、かえって土地探しの間口を狭めたり、自由な家づくりの足かせになってしまうことも少なくありません。ご自身やご家族が「どんな光を心地よいと感じるか」という身体的な感覚に目を向けてみると、選ぶべき土地の選択肢はずっと豊かに広がっていきます。

変形地や旗竿地を「積極的」に選ぶということ
旗竿地や傾斜地、三角形などの変形地は、一般的な不動産市場では敬遠されがちです。そのため価格が抑えられていることも多く、経済的な理由からやむを得ず検討される方もいらっしゃいます。

しかし建築家の視点が入ると、それらの土地はまったく違う表情を見せ始めます。

通りからの視線が届きにくい旗竿地だからこそ、街の喧騒から離れた静かな中庭がつくれるかもしれない。
高低差があるからこそ、遠くの空や緑への抜け感を独り占めできるかもしれない。

土地の形状や周辺の建ち方をじっくり観察し、「どこに向けて視線をひらき、どこを閉じるか」。その土地が持っているポテンシャルを見極め、敷地に最適なボリュームと抜け感を導き出すことは、私たち建築家の大切な仕事の一つです。

「消極的な妥協」として土地を選ぶのではなく、「この土地だからこそ、自分たちだけの特別な環境がつくれる」という積極的な視点で家づくりができること。それこそが、建築家と一緒に土地を考える最大の面白さであり、メリットだと感じています。

敷地の高低差や周辺の樹木、太陽光の入射角、風の通り道を立体的に読み解く手描き断面環境ダイアグラム
敷地の高低差や周辺の緑、風の通り道、光の角度を立体的に読み解きながら、その土地ならではの心地よさを探っていく断面スケッチ。

客観的な事実と、研ぎ澄まされた感覚
最近では、局地的な豪雨による水害や土砂災害など、自然環境に対する配慮も一段と欠かせなくなりました。

土地を選ぶ際には、ハザードマップの確認はもちろんのこと、その土地の古い地名が持つ意味や、近くに古くからある神社仏閣(長い年月にわたって災害を避けてきた場所であることが多いものです)の立地など、歴史的な背景(地歴)に目を向けることも大切なヒントになります。

そうした「客観的な事実」の確認と、実際に現地に立って風の流れや周囲の気配を感じる「主観的な感覚」。その両方を研ぎ澄ませながら、不動産会社とはまた異なる視点で土地選びを後押しできる存在でありたいと思っています。

気軽に立ち寄れる「洋食屋さん」のように
土地の寸法が入った図面や不動産会社のチラシを前にして、方眼のノートに鉛筆を走らせてみる。

「敷地の状況からすると、中庭を囲む形が一番落ち着くだろうか」 「風と光の抜けを考えると、このボリュームのバランスはどうだろう」

そんなふうに、最初はごくごく小さなラフスケッチからスタートして、敷地とプランの可能性を少しずつ探り、大きく育てていきます。

木製デスクの上で方眼ノートに鉛筆とペンで描かれた中庭や建物のボリュームを検討する手描き間取りラフスケッチ
方眼ノートの小さなマス目から始まる家づくり。敷地の状況を観察しながらグリッドを引き、中庭の大きさや建物のボリュームを探っていきます。

ほんの数本の線を引くだけで、そこで過ごす朝の光景や、家族のこれからの生活の輪郭がふっと浮かび上がってくる瞬間があります。

最終的には実際の広さや高さ、木の質感や壁の手触りといった現実の建築になっていくわけですが、その最初の一歩である「暮らしのシナリオ」を一緒に描き、横で伴走していくことが、私にとって何よりの楽しみです。

「建築家に相談する」というと、どうしても敷居が高く、気後れしてしまうかもしれません。
ですが、決して構える必要はありません。街角のふらっと立ち寄れる洋食屋さんの扉を開けるような気軽さで、まずは候補の土地の資料や、「こんな場所が気になっていて」というお話を携えて、お茶を飲みに来る感覚でアトリエにいらしてください。

土地が決まる前だからこそ、描ける未来がたくさんあります。

[無料]土地選び・家づくりの初回ご相談について

「まだ土地を探し始めたばかり」
「気になっている土地の図面を見てほしい」
「建築家と建てる場合の進め方を知りたい」

そんな段階でのご相談も大歓迎です。
アトリエでのお茶を交えたお打ち合わせのほか、オンラインでのご相談も承っております。候補地のチラシやURLが手元にあれば、ぜひ一緒にお持ちください。


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大雨のあとで|千葉で暮らす、つくり手として

先日の記録的な大雨により被災された皆さま、また今も復旧作業や不安のなかにいらっしゃる多くの方々に、心よりお見舞い申し上げます。

私自身、この千葉の地で生まれ育ち、いまも拠点を置いて設計の仕事を続けています。各地で道路の冠水や浸水など深刻な被害が出ている様子を目の当たりにし、本当に胸が痛む思いでした。

雨が上がったあと、県内に暮らす同級生や仕事仲間たちとも互いの無事を確かめ合っておりました。

それとあわせて、これまでご縁をいただいたお施主様方へも順次ご連絡を差し上げました。
「市川のケヤキと共に暮らす家」や「一宮のセカンドハウス」、そして私たちのアトリエ兼自邸である「美浜のコートハウス」も含め、幸いにも建物への大きな被害はなく、皆さまが無事に過ごされているとのお返事をいただき、心から安堵しております。大変な状況のなか、温かいご返信をくださり本当にありがとうございました。

千葉県一宮町のセカンドハウス。雨風から住まいを守る深い軒と開口部、芝生の庭の外観
深く掛けた軒が、激しい雨風から住まいと日々の暮らしを静かに守ります。(一宮のセカンドハウス)

海や緑など豊かな自然に恵まれた千葉だからこそ、時に訪れる厳しい気象や自然の猛威とも向き合いながら暮らしていくことの重みを、改めて深く感じています。

住まいは、日々の穏やかな暮らしを包み込む背景であると同時に、過酷な自然から家族の平穏を守る場所でもあります。お天気が落ち着いた頃に、雨樋の流れや敷地の水はけなど、住まいの足元を少しだけ見渡していただければと思います。

深い軒下空間からステンレスメッシュスクリーン越しに望む雨上がりの田園風景
深い軒と柔らかなメッシュの皮膜が、雨風を受け止めながら、穏やかな日常の景色へとつなぎます。

生まれ育ったこの千葉で、同じ景色を見つめるつくり手として。
一緒につくり上げてくださった工務店さんたちと共に、住まいをお引き渡しした後も、皆さまの安心な暮らしの背景であり続けられたらと願っております。

被害を受けた地域の一日も早い復旧と、皆さまが安心して過ごせる日常が戻ることを、心よりお祈り申し上げます。

カワムラアーキテクツ
川村浩二


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チークの床と、猫のような身体感覚。

「お父さんの設計した家は、固くて居場所がない」

少し前に、娘から投げかけられた一言です。
建築家として一瞬フリーズしてしまうような手痛い指摘でした。

たしかに、庭の水やりをしてくれている時の娘を見ていると、実によく動きます。日当たりの良い場所、風の抜ける場所を感覚的に見つけては、そこに佇んでいる。その姿はどこか「猫の身体感覚」に近いものがあります。

そんな彼女にとって、ガランドウの2階空間は端正で美しくても、生身の身体をあずけて「ゴロン」とできる柔らかさが足りなかったのかもしれません。

特に、床に選んだ「チーク材」。
世界三大銘木の一つでもあるチークは、しっとりとした気品ある美しい木目と、圧倒的な高級感をもたらしてくれる素材です。この床材は、設計当時これから同居する母(妻の母)と一緒にショールームへ何度も足を運び、「これがいいね」と対話を重ねて選定した、大切な記憶のカタチでもあります。

ただ、木材としての密度が高く、強靭で「硬い」という特性も持っています。建築の足元を美しく、かつ堅牢に引き締めてくれるこの頼もしい硬さが、娘にとっては「そのまま直に寝転がるには、ちょっと身構えてしまう固さ」に映ったのでしょう。

素材の選択肢として思い出したのが、今春竣工した「ケヤキとともに暮らす家」の床のことです。

あの家の床には、足触りが柔らかく、温かみのある「杉板」を採用しています。お施主様ご家族ののびやかな暮らしぶりや全体の雰囲気、そしてコストの面から、これこそがベストバランスだと確信してご提案した素材です。

左側の塗り壁に落ちる斜めの光が、杉の柔らかな木目を浮き上がらせています。
お施主様のために選び抜いたはずのあの杉板の質感を思い返したとき、娘の言う「ゴロンとできる柔らかさ」の正体が、実はこの、杉が持つ物理的な「柔らかさ」と「人肌に近い温かさ(熱伝導率の低さ)」そのものだったのではないか、と思いました。彼女の「猫のような身体感覚」は、無意識のうちにチークの硬質さではなく、杉のような有機的な柔らかさを求めていたことに、気づかされたのです。

建築家がエゴで作った「美しいだけのギャラリー」のような空間は、そこで暮らす生身の人間を緊張させてしまいます。生活の背景であるはずの建築が、主役を脅かしては本末転倒です。その「背景としての建築」をまさに自問自答している舞台が、この美浜のコートハウスです。

元々は母との同居を見据えて設計した二世帯住宅で、竣工後の4年間は母がひとりで暮らしていましたが、来年の春、ついに私たち家族が引っ越して本格的な同居をスタートします。

それに伴い、ガランドウだった2階が家族のLDKになります。これまでは私のアトリエの延長線だった場所が、「家族が毎日を営む場所」へと生まれ変わる。そのための整備を、これから本格的に計画していくことになりました。

テーマは、「建築は固く、設えは柔らかく」です。

空間のBefore / After:大人な佇まいと、猫の野生

これまでは、空間の骨格をそのまま見せるために、あえて家具を置いていませんでした(Before)。

新しく計画しているAfterのイメージは、照明の陰影が美しく、素材の質感が引き立つような、少し「大人な落ち着いた雰囲気」を目指しています。
ですが、ここで私のエゴだけで締め上げすぎては、また娘に「居場所がない」と言われてしまいます。義母と選んだチークの床が持つ大人っぽいシックな高級感と歴史を何より大切に引き継ぎながら、そこに娘の言う「生身の身体をあずけてゴロンとできる柔らかさ」を、どのように破綻なく、設え(インテリア)として重ね合わせていこうかと、いま心地よい悩みに頭を巡らせています。

AIによるイメージ
AIによるイメージ

・家具による「柔らかさ」の実験
まずは上質な家具や大ぶりのラグで空間の重心をぐっと下げてみます。完璧なハコのなかに、あえて「猫のようにまどろめる余白(ブランケットやクッション)」を混ぜていく試みです。

・造作ミニキッチンの設置
お施主さまとお茶を飲みながら雑談できる場であり、私たちのこれからの暮らしの中心となる造作ミニキッチンを設えます。淹れたてのコーヒーの香りが、固い空間の輪郭をふっと緩めてくれるはずです。

建築家として、細部の精度を妥協することは一切ありません。
けれど、そこでの暮らしや過ごし方は、どこまでも無防備で、柔らかくていい。

母が4年間大切に守ってくれたハコに、来春、ここから新しい家族の日常が始まります。
娘の飾りのない素直な一言から始まったこの変化を、これからの設計のヒントにしながら、美しくも居心地の良い「背景としての建築」を仕立てていきたいと思います。

計画の進捗や、具体的アイデアのせめぎ合いは、またこちらで正直にご報告したいと思います。


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【メディア掲載】Webマガジン『ekrea Parts』の特集インタビューを受けました

こんにちは。カワムラアーキテクツの川村です。

新緑が深まり、アトリエ(美浜のコートハウス)の前庭では、鮮やかなクリーピングタイムの花が一面に咲き広がり、豊かな緑に包まれる美しい季節を迎えました。

さわやかな晴天に恵まれた先日のこと。建築パーツ専門サイト『ekrea Parts』の特集インタビューのため、取材担当の方がこのアトリエへ足を運んでくださいました。そして先日、その特集記事が無事に公開の運びとなりました。

記事には、「住まい手の人生を引き立てる『器』をつくる」というタイトルを付けていただきました。当日はライターの方と対話を重ねる中で、私自身、改めて自らの設計思想の根源を見つめ直すような、静かな時間を過ごさせていただきました。

幼い頃、父に連れられて巡った美術館での原体験。そして、独立前に師から学んだ、自身の主張を押し付けるのではなく、住まい手の声に深く耳を澄ますことの大切さ。それらが今の「生活の背景としての建築」という私の軸を、どのように形作ってきたのか。

記事の中では、今年3月に竣工した「ケヤキと共に暮らす家」や、このアトリエの事例を交えながら、視覚的な雑音を削ぎ落とした「ノイズのない空間」についてお話ししています。

既製品ではどうしても生じてしまう隙間や違和感を解消する、ミリ単位の「造作」へのこだわり。そして、木目が美しいタモ材を用いたキッチンに見る、取っ手を極限までなくした「引き算の美学」。普段の図面や写真だけでは語りきれない、そうした素材選びの裏側やディテールの意図についても、丁寧に掬い上げていただきました。

家づくりを考えていらっしゃる方だけでなく、日々の暮らしを整えたいと感じている方にも、何か届くものがあれば幸いです。

お時間の許す時に、ぜひご一読ください。

▶︎ 特集記事はこちら:〈シリーズ_造作で住まい手の暮らしをかなえる人々27〉「深く耳を傾け、住まい手の人生を引き立てる『器』をつくる建築家」

担当作が2件掲載! エクスナレッジ新刊『最高の家』とカワムラアーキテクツの原点


先日、前職である彦根建築設計事務所の彦根明さんより一冊の本を頂きました。
2026年2月にエクスナレッジから出版されたばかりの新刊、その名も『最高の家』です。
彦根さん、出版おめでとうございます。そして、貴重な著書をご恵贈いただき、心より感謝申し上げます。

この本は、単なる建築作品集ではありません。
家が完成するまでのプロセスや、その後の暮らしぶりが、美しい写真と文章、そして彦根さんならではの繊細なコンセプトスケッチと共に紹介されています。
それぞれの家族に寄り添った「最高」の形が丁寧に描かれており、これから家づくりを考える方にとって、非常に読み応えのある一冊となっています。

実はこの本に掲載されている12の物語のうち、私が担当させていただいた作品が2件含まれています。
巻末の担当者一覧にも、私の名前(川村浩二)を記載していただきました。
当時、お施主様の想いを形にするために細部までこだわり抜き、現場と何度もやり取りを重ねた日々が思い出されます。
今回改めて書籍としてその結晶を眺めると、当時の苦労よりも、良い家をつくり上げた達成感と誇らしさが込み上げてきます。
建築家として育てていただいた日々に、改めて感謝の念を抱きました。

長いアプローチのある家
水盤のある家

私が現在主宰するカワムラアーキテクツの設計活動においても、この「最高の家」をつくる精神は色濃く受け継がれています。
• 土地のポテンシャルを最大限に引き出すこと
• お施主様のライフスタイルに深く寄り添うこと
• 細部のディテールまで徹底して美しく納めること
前職で培ったこれらの経験と技術は、現在の私たちの事務所の「核」となっています。
独立後も変わらず、むしろより一層の情熱を持って、目の前のお客様にとっての「最高の家」を提案し続けています。

本屋さんで見かけた際は、ぜひ『最高の家』を手に取ってみてください。建築の奥深さと楽しさに触れられるはずです。
そして、この本に載っているような、
「物語のある家づくり」
「設計密度の高い、心地よい住まい」
にご興味を持たれた方は、その系譜を受け継ぎ、
新しい風を吹き込むカワムラアーキテクツのドアを叩いてみてください。
あなただけの「最高の家」を一緒につくりましょう。

お問い合わせやご相談はこちらより

2026年の始まり | 稲毛の浜と、姿を現したケヤキの家

新年あけましておめでとうございます。
カワムラアーキテクツの川村です。

写真は、私のアトリエのすぐ近くにある稲毛の浜です。
お正月に娘達と一緒に海へ散歩に出かけました。
砂浜にしゃがみ込んで、彼女達が楽しそうに記した「2026」の文字。
波音だけの静かな時間の中でその背中を見ていると、新しい年が穏やかで希望に満ちたものになるような、そんな予感がしました。
私たちがつくる「建築」もまた、こうして次の世代へと記憶を繋いでいく背景となるものです。
本年も、この美浜の地で、ご家族の暮らしを支える丁寧な建築づくりに励んでまいります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、現在進行中のプロジェクト「ケヤキと共に暮らす家」は年末に足場が外れました。


これまでシートに覆われていた建物が、冬の空の下でその全貌を現しました。
海が自然の雄大さを教えてくれるように、敷地に立つケヤキの古木もまた、この土地の記憶と生命力を象徴しています。そのケヤキに寄り添うように計画した住まいが、実際の風景として立ち上がった姿には感慨深いものがあります。

現在は、2月末のお引き渡しに向けてラストスパートに入っています。お施主様と職人さんたちと共に細部までこだわり、仕上げていきます。
完成時には、お施主様のご厚意によりオープンハウス(完成見学会)を開催する予定です。
「海辺の散歩」のように、心地よい時間を感じていただける空間になっているかと思います。
日程などの詳細は、また追ってご案内いたします。
2026年もどうぞよろしくお願いいたします。

カワムラアーキテクツ
川村浩二

前職で手掛けた住宅を訪ねて━庭のある時間

先日、関西方面での現地調査の後に、十数年前に前職で担当した住宅を訪ねる機会がありました。(彦根建築設計事務所/TJM)
ガレージの門をくぐると、中庭の緑の先に建物が見え隠れする構成です。
竣工時から施主様の手入れが行き届いていて、時間とともに育まれた「庭のある暮らし」の豊かさが静かに息づいていました。

今年初めに読んだ宇野常寛さんの『庭の話』にもあるように、庭とは人の意志と自然の営みが交差する場所です。
この住まいもまた、設計の意図と住まい手の手入れ、そして時間の流れが重なり合いながら、美しく成熟していました。

建築はつくった瞬間に完成するものではなく、暮らしとともに完成へと向かうもの。庭を通して、その「時間のデザイン」を感じた訪問でした。

緑の土手の先に母屋が見え隠れします


書籍では「庭」はあくまでも情報社会論を語る上での比喩表現として使われていますが、実態の「庭」についても様々な言葉で語られていて思考の整理になりました

日比谷ガーデンコンテストを観てきました

先日、日比谷公園で開催されていた「日比谷ガーデンコンテスト」を見てきました。
今回の目的は、いつも外構提案でご一緒している季織苑さんが、国土交通大臣賞を受賞された作品を拝見すること。

季織苑さんは千葉を拠点とする造園会社で、カワムラアーキテクツの住宅でも【美浜のコートハウス】【一宮のセカンドハウス】などで外構の設計・施工をお願いしています。
自然の景観をそのまま生活空間に取り入れるような、ナチュラルで調和のとれた提案が持ち味。建物の個性を引き立てながら、住まい全体を生き生きとした印象にしてくれる、信頼できるパートナーです。

受賞作は、積層的な立体構成の中に多様な植栽を織り込み、見る角度によってまったく違う表情を見せる作品でした。
他の多くの作品が正面からの見え方に重点を置く中で、この作品は回り込んでも楽しめる立体的な構成になっており、歩くことで新しい景色が現れるような奥行きを感じました。
高木・低木・下草のバランスが絶妙で、人工的な造形を感じさせない自然な流れが印象的。光や風、時間の移ろいとともに変化していく庭でした。


建築と同じように、造園もまた「時間」とともに完成していくもの。
こうした作品を見るたびに、建築と庭の関係性、そして“見る”だけでなく“歩いて体験する”空間づくりの大切さを改めて感じます。

住宅の資金計画は「設計の前」が肝心。建替え・相続・二世帯住宅でのコンサルティング活用事例

良いデザインは、健全な資金計画の上に成り立ちます。

設計の自由度を高めるためには、むしろ「お金の話」を早くテーブルにのせることが大切です。

実家の建替えと二世帯住宅として計画された〈ケヤキと共に暮らす家〉では、アラウンドアーキテクチャーのコンサルティングを受けながら、土地の名義整理や二世帯の資金分担、ライフプランまでを丁寧に整理しました。

今回はその実例を通して、設計初期における資金コンサルティングの有効性についてお伝えします。

住宅の資金計画、専門家に相談するという選択

家づくりを考えはじめると、まず気になるのが「資金計画」。建物本体の工事費だけでなく、土地の取得費用や登記・税金、外構、引越し費用など、想像以上に多くの項目があります。

さらに、親から土地を相続する場合や、兄弟での共有名義、既存ローンの組み換えなど、ご家族ごとに条件がまったく異なるのも現実です。また、親子間や夫婦間だからこそ「お金や将来の負担の話を切り出しにくい」という心理的な難しさもあります。

こうした複雑な資金計画を一緒に整理してくれるのが、住宅ローンや不動産に詳しい外部コンサルタント。金融機関や不動産会社とは異なる中立的な立場で、最適なローンの組み方や相続に関する注意点を提案してくれます。

「ケヤキと共に暮らす家」での実例:計画初期からのコンサル活用

「ケヤキと共に暮らす家」は、既存住宅の建替え計画でした。
ご家族が代々住み継いできた敷地でありながらも、土地の名義や相続の整理、親世帯・子世帯の住み分け、そして二世帯住宅としての資金分担など、検討すべきテーマが多くありました。

そこで今回は、株式会社アラウンドアーキテクチャーにコンサルティングを依頼。土地の名義整理、二世帯住宅の資金構成、ライフプランに基づく返済シミュレーションなどを、プランの図面を本格的に引き始める前の段階から一つひとつ紐解いていただきました。

コンサル導入による具体的な効果
•無理のない予算の全体像を早期に把握できた
•感情論にならず、家族全員が納得できる資金分担の合意ができた
•相続・登記・税務のリスクを事前に解消できた
•予算の不安が消えたことで、素材や空間の質に集中して設計を進められた

「設計の前に全体の上限と安心感を固めること」が、結果的に設計の自由度と質を何倍にも高めてくれたと実感しています。

資金計画表の例

コンサルタントに依頼する主なメリット

1.中立的なアドバイス

銀行やハウスメーカーのローン相談は、どうしても自社商品が中心になりがち。独立系のコンサルタントなら、複数の金融機関を比較しながら金利や返済プランをフラットに検討できます。

2.相続・税務まで視野に入れた計画

親名義の土地を活用する場合、贈与税や相続税の扱い、登記の方法など専門知識が必要です。税理士や司法書士と連携したコンサルタントなら、後から発生しがちな税負担を事前に回避するプランを立てられます。

3.30年先を見据えたライフプラン

子どもの進学、車の買い替え、将来の修繕費や老後資金など、人生全体の収支を見据えて「無理のない返済額」をシミュレーションできる大きな安心があります。

設計事務所としてのスタンス

私たちは設計の専門家として、デザインや性能だけでなく、資金面も安心して進められる家づくりを大切にしています。

建築家が一人で抱え込むのではなく、資金や税務の専門家とワンチームで動くこと。

特に相続や建替え、二世帯住宅のように複合的な条件を持つプロジェクトでは、早い段階から中立なプロが関与することで、施主の人生設計を守りながら、本物の素材や手仕事にしっかり予算を配分できる誠実な家づくりが可能になります。

まとめ

住宅は一生に一度の大きな選択。“建てたい家”と“返せるお金”を無理なく両立させるためには、専門家の知恵を早めに取り入れることが何よりの近道です。

土地やご実家の扱いで迷われている方は、プランを考える前の「最初の整理」からお気軽にご相談ください。

家づくりの進め方・ご相談について

土地やご実家の相続整理、将来を見据えた資金計画など、プランを具体化する前の「最初の交通整理」から丁寧に伴走いたします。